The Japanese Society of Veterinary Science
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動物の病気

牛海綿状脳症(BSE)

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BSE公開講演会(H14.10.24)
「BSEと食の安全性」
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「BSEの感染発病機序」
   小澤義博博士

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わが国への侵入/蔓延が危惧される動物由来感染症

1. 狂犬病
2. ・ニパウイルス感染症
 
ニパ(Nipah)ウイルス
  感染症について(第一報)
     
小澤義博先生
3. 西ナイル熱
4. ウイルス性出血熱
5. ダニ媒介性脳炎
6. リフトバレー熱
7. Bウイルス感染症
8. エボラ出血熱
9. ハンタウイルス感染症
10. インフルエンザ
11. ボルナ病
12. オウム病
13. Q熱
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15.エキノコッカス症
16.野兎病

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 霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第155回)2/25/2004

鳥インフルエンザ出現の背景

2月13日、NHKの視点論点で上記の話をしました。その際の原稿を転載します。なお、図は割愛します。

 昨年はSARSの発生が新しいウイルス感染症の脅威についての警鐘となりました。今年になってトリインフルエンザが韓国、ついで日本に発生し、さらにアジア各地に広がり1000万羽を越える鶏が殺処分され、感染して死亡した人も見いだされています。このようにトリインフルエンザは養鶏産業や食品業界に大きな経済的打撃を与えていますが、もっとも心配されることは、このウイルスが人から人に感染を広げる新型インフルエンザに変わる可能性です。
 20世紀には3回、新型インフルエンザの発生がありました。(図1)1918年のスペイン風邪、1957年のアジア風邪、1968年の香港風邪です。そのうち、スペイン風邪は全世界に広がり、2000万人から4000万人もの人が死亡したと推定されています。これらの世界的流行の原因になったインフルエンザウイルスは、トリインフルエンザウイルスと人インフルエンザウイルスの遺伝子が混ざりあってできた新型のウイルスと考えられています。本来、トリインフルエンザウイルスは人間には感染しませんが、家畜の豚はトリインフルエンザウイルスと人のインフルエンザウイルスの両方に感受性を持っています。そのため、豚が両方のウイルスに感染して、この図(2)のように豚の体内でウイルスの間に遺伝子の組み替えが起こって新型インフルエンザウイルスが出現するのです。現在、アジア各国で発生しているトリインフルエンザは人に感染を起こしていますので、豚だけでなく人の体内でも、新型のウイルスが出現する可能性があります。そのような新型インフルエンザウイルスが出現した場合、最悪の場合には世界で15億人が重症となり、5億人が死亡する可能性があるという推定もあります。
 これまでもエボラウイルスを初めとして多くの新しいウイルスが出現しエマージングウイルスと呼ばれて、その脅威が問題になっていました。それらのほとんどは野生動物から直接、人に感染していました。もともと野生動物に人が接触する機会は多くはありません。ところが、トリインフルエンザの場合には鶏から人への感染です。トリインフルエンザウイルスは野生の鴨が持っているウイルスですが、人への感染はカモからではなく、鶏です。野生動物から家畜にウイルスが感染し、そこで増えたウイルスに人が感染しているのです。
 野生動物と違って鶏は人間が飼育しているものです。人間とはいつも接触しています。したがって鶏からの感染の機会は野生動物の場合とは比べものになりません。家畜や家禽から感染するエマージングウイルスは非常に憂慮すべき事態といえます。
 この図(3)は野生動物からヒトへのウイルス感染の広がり方をまとめてみたものです。エボラウイルスなどは熱帯雨林に生息する未知の野生動物からヒトに感染します。人から人への感染は注射器の使い回しなどにより病院内で起きただけです。ニューヨークで問題になっているウエストナイルウイルスは、野鳥が持っているもので、その血を吸った蚊に人がさされて感染します。人から人に広がったことはありません。SARSの場合は未知の野生動物からヒトが感染し、さらに人から人に咳やくしゃみを介して感染が広がりました。
 ともかく、これらはすべて野生動物から直接、人が感染したものです。
 ところが、1998年から1999年にマレーシアで起きたニパウイルス感染では、果物を食べるオオコウモリがウイルスを持っており、オオコウモリの尿などに排出されていたウイルスに感染し、そのような豚の世話をしていた人に致死的感染が広がりました。マレーシアでは1960年代から養豚が始まっていましたが、1980年代になって、それが急激に拡大していきました。その理由は、シンガポール政府が畜産公害のために養豚を中止して輸入に頼ることを決めたことで、そのためにマレーシアからの豚の輸出が急に増加したのです。その結果、養豚場は住宅密集地から山岳地帯に広がっていきました。そこは、オオコウモリが生息している地域でした。その結果、オオコウモリと豚が接触する機会が生まれたのです。
 ニパウイルス感染の際に、マレーシア政府は最初、日本脳炎と診断しました。日本脳炎ウイルスは蚊が媒介するもので、まず豚の体内でウイルスが増え、その血を吸った蚊に人が刺されると感染します。そこで、殺虫剤を散布して蚊の退治を試み、一方で豚にワクチン接種を行いました。豚へのワクチン接種では人の場合のように注射器を一本ずつ変えることはありません。同じ注射器で多数の豚に注射をします。注射器の使い回しでエイズが広がったのと同じように、日本脳炎ワクチン接種で多数の豚にニパウイルス感染が広がったのです。
 ニパウイルス感染は、養豚産業の拡大と不適切なワクチン接種という、畜産形態が原因によるといえます。
 さて、トリインフルエンザの場合はどうでしょうか。
 アジア地域では人口が増加し、経済が豊になり、都市化が急速に進んでいます。卵、鶏肉などの需要は増加し、養鶏は昔のような庭先での飼育ではなく、養鶏産業は工場なみになりました。このような養鶏産業は1960年代から欧米、日本で始まっていましたが、アジアの発展途上国でも1980年代頃から急速に取り入れられてきたのです。
 シベリアなどから飛んできた野生のカモの糞に含まれたトリインフルエンザウイルスに鶏が感染すると、狭い鶏舎に閉じこめられている多数の鶏の間でウイルスは急速に広がってしまいます。しかも、これらの国では生きた動物の売買が一般的で、動物市場では生きた鶏が売られています。感染した鶏の糞などに含まれる大量のウイルスを、人が吸い込むチャンスが考えられるわけです。
 ニパウイルスや鳥インフルエンザウイルスは、まず家畜や家禽で大量に増殖し、ついで人に感染しているのです。現在の畜産・養鶏の進展がもたらす新しいタイプのエマージングウイルスです。このような背景を理解した上で、今後の発生防止対策を考えなければなりません。

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