人獣共通感染症 第95回
レベル4実験室の現状(2)

霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第95回)4/11/00

レベル4実験室の現状(2)    


    昨年5月の第77回の本講座でレベル4実験室の一般的特徴の解説と世界各国の現 状をとりあげ、さらに第84回 ではフランスのリヨンに建設された最新のレベル4実験室をした際のメモをご紹介し ました。とくに第77回ではレ ベル4実験室の建築ラッシュを断片的にご紹介しましたが、その後、昨年11月には ASM News, Vol. 65, No. 11に掲載された「ホットラボの暑い時期」(Hot Times for Hot Labs)という報告で、世界におけるレベル4実験室の現状が紹介されています。これ を参考にしてもう一度整理し直 してみます。



    1.名称  
    昔はP4実験室と呼ばれていました。Pは物理的封じ込めPhysical containmentの略です。しかし、その後、病原体pathogenのPとか、防御レベル protection levelのPとも言われるようになり混乱が起きています。国際的に現在ではバイオセー フテイレベルBiosafety Level、略してBSLが広く用いられるようになりました。すなわちP4実験室はBSL-4実 験室となります。さらに省 略してBL-4実験室と呼ばれることもあります。本講座ではレベル4実験室としていま す。  
    なお、オーストラリアではPhysical containment 4の略PC4が採用されており、また米国NIHに新たに建築されたものはMCLと呼ばれてい ます。これはMaximum containment laboratory の略で、昔CDCが用いていた名称です。  一方、よく知られているように、ベストセラー小説ホットゾーンや映画アウトブレ イクがきっかけで、レベル4実 験室は一般にホットゾーンとも呼ばれてます。


    2.全世界に存在するレベル4実験室(アイウエオ順)
    イラク
    Foot and Mouth Disease Vaccine Facility, Al Manal
    (これは家畜伝染病の口蹄疫ワクチン施設となっていますが、国連査察団によりレベ ル4実験室と疑われて破壊され ました。)
    英国
    Central Public Health Laboratory (CPHL), London
    Centre for Applied Microbiology Research(CAMR), Porton Down
    National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC), Potters Bar(建設中)
    Chemical and Biological Defense Establishment (CBDE), Porton Down(建設中)
    オーストラリア
    National High Security Quarantine Lab (NHSQL), Geelong
    Victorian Infectious Disease Reference Lab. (VIDRL), Melbourne
    カナダ
    Canadian Science Center for Human and Animal Health, Winnipeg
    ガボン
    International Center for Medical Research(CIRMF), Franceville
    スペイン
    Center for Investigations of Animal Health (CISA), Madrid
    スウェーデン
    Institute for Infection Control, Solna(建設中)
    ドイツ
    Institute for Virology, Marburg
    Bernhard Nocht Institute of Tropical Medicine, Hamburg
    日本
    国立感染症研究所(レベル3での使用)
    ブラジル
    UNESP, Campus de Botucatu, Sao Paulo(建設中)
    フランス
    Laboratoire Jean Merieux, Lyon
    米国
    CDC, Atlanta
    Fort Detrick, (USAMRIID), Frederick, Maryland
    Maximum Containment Lab (MCL), NIH, Bethesda, Maryland
    (多剤耐性結核菌のみを対象)
    Georgia State University, Atlanta, Georgia
    Southwest foundation for Biomedical Research, San Antonio, Texas(建設中)
    University of Texas Medical Branch, Galveston, Texas(建設中)
    ベラルーシ
    Research Institute for Epidemiology and Microbiolgy, Minsk
    南アフリカ
    National Institute of Virology, Johannesburg
    ロシア
    Institute for Viral Preparations, Moscow
    Vector, Novosibirsk, Siberia
    Lakhta, St. Petersberg近くにも存在が疑われています。  


    このほか台湾にはグローブボックス型のものがあるといわれています。また、リビ アと北朝鮮にはレベル4実験室 に相当するものがあると推定されています。  
    一方、第84回でご紹介したようにフランスのレベル4実験室では2005年に火 星探索機が持ち帰るサンプルの 検査も検討していますが、NASAはテキサス、ヒューストンのジョンソン宇宙基地の近 くに火星サンプル専用のレベル 4実験室を計画しているようです。また、テキサス大学のレベル4実験室も火星サン プルの検査を検討中と言われて います。


    3.問題点  
    多くのレベル4実験室が存在または建設中ですが、その安全基準になると不明の点 が多々あります。国際的な基準 もありません。  
    日本のものは第77回講座でご説明したようにグローブボックスタイプのもので、 上記のリストの中でも最高の安 全性が確保されています。グローブボックスタイプの実験室は日本のほかにオースト ラリアのVIDRL、ガボン、ドイ ツ、USAMRIIDの一部、ジョージア州立大学などの実験室です。  
    レベル4実験室で取り扱う病原体はエボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッ サウイルスなど、ほとんどは南 半球の熱帯雨林由来のものです。これに対してレベル4実験室のほとんどは、これま で北半球にありました。このア ンバランスの解消にオーストラリアが貢献しています。とくに最近のニパウイルス感 染ではオーストラリアがCDCと 一緒に大活躍しています。 ニパウイルス感染を契機にアジア地域でのレベル4実験室の必要性が国際的に提唱さ れています。本来ならば日本も アジアの一員として協力すべきものと思いますが、現状では無理のようです。


     

     



    Kazuya Yamanouchi (山内一也)



    連続講座:人獣共通感染症