霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第107回)11/22/00
WHO異種移植による感染・発病のサーベイランスと対応に関するガイダンス:国際協力と調整のための戦略(案)
WHOは異種移植における感染の予防と管理についてのガイダンスを1998年にすでに発表していますが、今回9月20日付けで具体的なガイダンス案を発表し、これが10月4?6日に開催されたOECDとWHO
の異種移植監視に関する合同専門家会議(Joint WHO/OECD Consultation on Xenotransplantation Surveillance)で配布されました。英文タイトルはDraft
WHO Guidance on Xenogeneic Infection/Disease Surveillance and Response: A Strategy
for International Cooperation and Co-ordinationです。
その要点をご紹介します。付属資料まで入れると膨大なものですので、要点のみをピックアップします。
I. 序文
A. 目的
国際的にハーモナイズしたサーベイランス活動により異種移植にかかわる感染と発病を効果的に検出し報告するためのネットワーク構築のため。その背景は、
異種移植臨床試験実施の関心が継続していること。
異種移植には感染症リスクが存在すること。
過去に行われた異種移植では感染や発病への配慮が行われていなかったこと。
感染や発病が起きた際に対応するための戦略が必要なこと。
この戦略には国と国の間での協力と調整の機構が含まれなければならないこと。
B. 異種移植、感染症リスク、サーベイランス
1) 異種移植
治療目的でヒトをヒト以外の動物の細胞、組織、臓器にさらすこと。世界的臓器不足の解決のため、ほかに効果的な治療法のない病気への治療のため、またはよりよい治療の恩恵が期待される場合の医療行為。
2) 異種移植にかかわるリスク
既知の病原体では予知できるものもある。しかし未知のものでは予知できない。異種移植の種類によりリスクのレベルも異なる(臓器移植と細胞移植のように)。
すべての病原体がリスクをもたらすものではない。ヒト臓器の移植でも病原体汚染による発病や死亡が起きている。また、動物体内に存在していても移植する組織に存在しなければリスク因子にはならない(たとえば胃に鞭虫のいるブタの心臓の移植)。
3) 国際的サーベイランスの必要性
国際的視点が必要。サーベイランスのデータと報告は国際的に合意された基準によることが必要。
I. 異種移植での感染と発病に関するサーベイランスの概念
A. 定義
1) ほぼ確実と思われる感染 (Probable xenogeneic infection)
レシピエントでの動物由来病原体の検出
このような病原体にさらされた証拠
異種移植製剤やドナー動物、異種移植手術、またはレシピエントとの接触と時間的に関連
2) 可能性がある感染 (Possible xenogeneic infection)
ドナー動物の細胞とレシピエントの細胞が混在するサンプルで病原体を検出した場合(マイクロキメリズム)。知見が積み重なれば、この定義は削除するのが合理的かもしれない。
3) ほぼ確実と思われる症状 (Possible xenogeneic disease syndrome)
以下にさらされたこととの時間的関連のある場合で、供給源動物の病原体に疫学的に起因できるもの、またはヒト由来病原体とは考えられないもの
異種移植製剤または供給源動物
異種移植実施
異種移植製剤のレシピエント
4)疑わしい症状 (suspected disease syndrome)
3の場合と同様の時間的関連があるが、動物由来病原体によることがはっきり証明できないもの
B. 異種移植感染・発病の際のサーベイランスの定義:省略
C. サーベイランスの利用
リスクの検出
リスクの解析
リスクの減少
D. 異種移植感染・発病のサーベイランスの成果
1)データ:データベース、登録システム、生物試料と記録の保管
2)情報:集めたデータの解析にもとづく成果。これには異種移植実施施設、動物生産場所、 異種移植などが含まれる。
3)対応:情報伝達、調査、減少、将来への改善のためのフィードバック
E. 倫理的問題(付属資料に詳細な記述)
1) 患者の保護:ヘルシンキ宣言とCIOMSガイドラインによる。
2) 公衆衛生の保護:レシピエントと接触者の個人的自由の束縛が行われる可能性がある。 倫理的視点が異なってはいても、グローバルな同意が必要。
II. 国際的サーベイランスネットワーク
A.序文
異種移植における感染の問題は異種移植にかかわる国のみでなくそれを欲しない国にもリスクをもたらすことを認識するべき。このシステムには次の3つの基本的性格が必要。
国際的ハーモニゼーション
種々の管理された効果的なサーベイランスのアプローチを受け入れる柔軟性
国際的レベルで事態を見いだし報告するシステム
B.ネットワークの枠組み
大部分の場合、サーベイランスと対応は国の機能。
C.サーベイランスと対応のネットワークレベル
4つの行政レベル
末端ネットワークレベル
中間ネットワークレベル
中央または国全体のネットワークレベル
国際的ネットワークレベル
詳細は省略
D.ネットワークの評価
E.ネットワークの運営の要件
付属資料(かなり具体的かつ詳細な内容ですので、タイトルのみご紹介します)
1.用語解説
2.ネットワーク報告書の書式見本
末端、中間から中央レベルへの報告書式
中央から国際レベルへの報告書式
3.データベースの見本
4.生物試料保管の見本
5.サーベイランスと対応に適用される倫理的原則
6.サーベイランスのデータ源の候補
7.サーベイランスと対応ネットワークの評価のための指標となりうるものの例
Kazuya Yamanouchi (山内一也) |