シンポジウム「耐性菌問題を考える」開催報告

2003/11/23

皆 様

唐木です。21日に開催した「耐性菌問題を考える」シンポジウムには多くの方が参加していただきました。講演者の方にはポイントをついた話をしていただき、また熱心に討論をして頂きました。ありがとうございました。

100%満足できるようなリスクコミュニケーションはできませんでしたが、少なくとも

  1. 耐性菌問題の重要性、
  2. 講演者全員が耐性菌問題を何とか解決しようと努力をしていること、

  3. しかし耐性菌問題の原因などについては多くの違った意見があり、リスク評価が必要なこと、

  4. リスク評価の結果がでる前に、今すぐ予防の原則に沿ったリスク管理を行うべきであり、それが実現しようとしていること

の4点は参加者にご理解いただけたと思います。

時間の制限があり、十分な意見の交流ができなかった点は、次の世話人会で続けたいと思います。残された問題点を思いつくままに順不同で挙げると、次のような点でしょうか。

「リスク分析」の考え方を基本にしないと安全性の議論ができないのですが、この考え方がまだ一般化していないこと。「リスク評価」と「リスク管理」の簡単な説明をし、この二つを別々に議論したのですが、リスク評価について議論をしているときに、リスク管理の問題と誤解して「危機感がない!」と感じられた方もいるようです。この点はさらに説明が必要なのでしょうね。

リスク評価の必要性についても理解が不足し、危険が少しでもあればリスク管理だけやればいい、という誤解があるようにも思います。リスク管理が正しいのか、実施しているリスク管理に変更の必要がないのかなどを検証するためにもリスク評価を厳密に行う必要性があることを議論することが必要だと思います。

リスク分析の考えが浸透していないことと裏腹に、まだ「白か黒か」の判断基準をもっている人が多いこと。医薬品にも食品には必ずリスクがあるので、リスクだけでなくベネフィットの話をすることが必要なのですが、そうすると「企業寄り」とか「甘い」という意見もあり、この点もさらに話し合いが必要です。

「予防の原則」の意味についても、十分な理解がないような気がします。「少しでも危険性があるのならすぐに全面的に禁止するのが当然」という意見もありますが、リスク管理の考えに立って、禁止措置が周辺にどのように影響するのかを考えなくてはならないことも改めて話し合わなくてはならないでしょう。

医療現場での抗生物質の使用量と耐性菌の発生率が比例することから、人の耐性菌問題の原因には医療現場での抗生物質の使いすぎがあることは確かです。家畜への使用制限はもちろん大事ですが、本気で耐性菌問題を解決しようとするのなら、院内での抗生物質の使いすぎや、ウイルスが原因の風邪には効かないにもかかわらず抗生物質を出す医師をなくすことも大事です。この問題についても議論しなくてはなりません。

科学者の悪い癖で、断言をしません。もちろん、一万分の一でも可能性があればゼロというわけには行かないのが科学ですが、それが誤解を招くことがあります。また、つい専門的厳密さを求めて、仲間内の議論のような難しい話になりがちです。一般に人に話をするときの技術が不足している点もあると感じました。

リスク分析以外にも科学的根拠に乏しい議論もありましたが、議論の時間がなかったので先に進めてしまいました。科学的な根拠はリスク評価の原点ですから、今後ひとつずつ丹念に検証をしていかなくてはならないと思っています。

どのリスクコミュニケーションの会でも同じような問題が起こっていますが、同じ発言者が繰り返して意見を述べたり、感情に走ったやり取りもありました。司会の問題であり反省をしています。

以上、シンポジウムに参加されなかった方のために簡単にご報告をします。

次回世話人会は1月末か2月始めごろ開きたいと思います。議論すべき点やご意見がありましたら、あらかじめお送りください。以上、ご報告とお願いまで。

世話人会は参加自由です。参加希望の方はメールでお知らせください。案内をお送りします。