本講座第101回で米国食品医薬品局の異種移植ガイドラインの概要をご紹介しました。英国では1998年に異種移植暫定諮問委員会(Unite Kingdom Xenotransplantation Interim Regulatory Authority: XIRA)がガイダンスを作成しています。この委員会は保健省のいわゆるケネディ委員会の勧告にもとずいて1997年に設置されたもので、ここで異種移植の臨床試験申請が審査されることになっています。その申請のためのガイダンスということになります。また、これに加えて1999年9月に異種移植源としてのブタの飼育に関する要綱が内務省から発表されています。
米国のものと比較するとかなり具体的な内容で、とくに動物福祉の面への配慮が目立ちます。 整理が難しく断片的になりますが、ガイダンスと要綱の要点をかいつまんでご紹介します。
1. 異種移植における生物安全性への配慮に関するガイダンスUnited Kingdom Xenotransplantation Interim Regulatory Authority : Guidance Notes on Biosecurity Considerations in Relation to Xenotransplantation, 1998
序文
ここでとりあげる異種移植はヒト以外の動物由来の生きた細胞、組織、臓器の移植、挿入、体外灌流。
動物種としては、臓器移植にはブタがもっとも適している。ほかの動物種も組織や細胞の場合には使用できるかもしれない。
異種移植はヒト集団に感染因子を持ち込む可能性がある。この危険性と動物の代償に対して多くの人命を救う可能性のバランスを考えなければならない。
レシピエントおよび一般社会に対する危険性を完全に排除することは現時点ではおそらく達成できないであろう。このガイダンスは動物からレシピエントへの感染の危険性を減少させるために払うべき注意を概説したものである。
臨床試験の申請を行うにあたって申請者はヒトの安全性についてあらゆる側面での配慮を行う責任がある。
セクション1.供給源動物
生産動物は繁殖計画に用いるもので、それ自体の細胞、組織、臓器は移植に用いない。生産動物由来の動物が供給源動物となる。これらの動物はすべて内務省のCode of Practice for Xenotransplantation Source Animalsに述べられた動物福祉基準にしたがって飼育されなければならない。
輸入動物の場合、原則としてそれから生まれた第一世代は供給源動物として使用してはならない。
動物の健康状態として無菌Germ-freeと特定の病原体フリーQualified pathogen free (QPF)がある。
注:これまでSPF: specific pathogen freeの用語でしたが、異種移植ではspecificのような漠然とした表現でなく、specified またはqualifiedの用語が用いられるようになっています。
この後、遺伝的背景、動物施設、動物の飼育-微生物管理と福祉の両面、動物の移動、動物の廃棄処分などの項目があります。
セクション2.専門および補助スタッフ:省略
セクション3.臓器と組織
採取場所、保存、剖検、死体の処分など
セクション4.臓器と組織:省略
セクション5.データ作成
供給源動物の品質管理システム、動物の記録、記録保存(XIRAが認めないかぎり廃棄してはならない)。
セクション6.動物の健康監視
付録
リスク評価の原則
リスク評価プログラムの詳細
申請者の責任で作成。
生ワクチン、弱毒ワクチンの使用は許されない。
特別に配慮を要する微生物のカテゴリー
人獣共通感染症病原体
例:Salmonella cholera suis, Leptospira icterohaemorrhagiae, Streptococcus suis type 1 and 2,
大腸菌0157、インフルエンザウイルス
同種移植またはほかの免疫抑制患者にリスクを与える病原体
例:ブタサイトメガロウイルス、トキソプラズマ、クリプトスポリジウム
腫瘍原性の病原体
例:レトロウイルス、ブタポリオーマウイルス
高い変異率または組換えを起こす病原体
例:レトロウイルスのようなRNAウイルス、ブタパルボウイルスのような一本鎖DNAウイルス 種を越えることが知られているが人獣共通ではないもの
例:Leptospira bratislava and muenchen
供給源動物に重い障害や病気を起こす病原体
例:Haemophilus pleuropneumoniae, salmonella cholera suis, 脳心筋炎ウイルス
2. 内務省:異種移植供給源動物としてのブタの飼育に関する要綱
Home Office: Code of Practice for the Housing and Care of Pigs Intended for use as Xenotransplant Source Animals
動物福祉面でのガイドラインです。一般原則、飼育施設、処置室、アイソレーター飼育室(これは動物福祉に抵触するところです。普通は2,3週間と述べられています)、指定獣医師、組織採取室、飼育スペース、温度、輸送などの項目について詳しく述べられています。