上記の本を出版しました。ふたばらいふ新書(双葉社)です。基本的には、これまでの本講座のダイジェスト版です。ご参考までに目次とあとがきを紹介させていただきます。
「目次」
第1章 感染症克服の幻想を打ち破った新興感染症
天然痘との戦い
感染症の克服は幻想
現代社会が招き入れる新興・再興感染症
第2章 熱帯雨林に潜む致死的ウイルス
1.マールブルグ病
輸入サルが持ち込んだ致死的ウイルス
散発するマールブルグ病
2.エボラ出血熱
90パーセント近い致死率の出血熱
首都ワシントンに出現したエボラウイルス
チンパンジーから人へ感染したエボラ出血熱
人口密集都市でのエボラ出血熱
エボラウイルスの自然宿主
先進国でのエボラ出血熱騒ぎ
エボラウイルスとの戦い
第3章 アフリカの風土病・ラッサ熱
伝道所病院での発生
先進国に輸入されるラッサ熱
第4章 異常気象で出現したウイルス:シンノンブレウイルス
ナヴァホ先住民に発生した謎の病気
昔から存在する腎症候性出血熱
日本で発生した腎症候性出血熱
全世界で発生するハンタウイルス感染
名前のないウイルス
アメリカ大陸全体に見いだされるハンタウイルス肺症候群
第5章 家畜が増幅するウイルス
1.馬と人の致死的ウイルス:ヘンドラウイルス
ヘンドラウイルスの自然宿主はコウモリ
2.豚の大量殺処分を招いたウイルス:ニパウイルス
新種と判明したニパウイル
養豚産業がもたらしたニパウイルス感染
第6章 第2のスペイン風邪?
20世紀最大の疫病:スペイン風邪
ホンコンで起きた人のトリインフルエンザウイルス感染
新型インフルエンザウイルス出現の理由
スペイン風邪の原因ウイルス
第7章 近代畜産の副産物・狂牛病(牛海綿状脳症・BSE)
牛での奇病の発生
異常な蛋白質が引き起こすプリオン病
新型クロイツフェルト・ヤコブ病の出現
BSEの起源
人の間の共食いで起きたクールー
エマージング感染症となった新型クロイツフェルト・ヤコブ病
フランスで起きてきたBSE騒動
第8章 海を渡るウイルス:ウエストナイルウイルス
ニューヨークで起きたカラスの大量死
ニューヨークに突如見いだされた脳炎患者
間違っていたウイルス
ヨーロッパでの発生が増加しているウエストナイル熱
海を越えたウエストナイルウイルス
米国に定着したウエストナイルウイルス
日本にウエストナイルウイルスは侵入するか
第9章 ウイルスとともに生きる
1.バイオハザード対策
バイオハザード対策確立の歴史
病原体の封じ込めの原則
2.レベル4実験室の現状
CDCのレベル4実験室
レベル4実験室の建設ラッシュ
日本のレベル4実験室
3.バイオテロリズム
4.野生動物の輸入と感染症法
5.根絶の世紀から共生の世紀へ
「あとがき」
最初にウイルスが発見されたのは、19世紀が終わろうとしていた1898年、牛の急性伝染病の原因である口蹄疫ウイルスとタバコ産業に大きな被害を与えているタバコモザイクウイルスについてである。ウイルスの研究は20世紀とともに始まった。
当初、ウイルスの存在は動物に病気を起こすことだけで確認されていた。1950年代になって試験管内で培養した細胞での研究が可能になり、ウイルス学の新しい展開が始まった。私がウイルスの研究の世界に入りこんだのは、ちょうどその時期だった。それから半世紀の間にウイルス学は著しく進展したが、病気の原因としてのウイルスについての関心は薄れていき、遺伝情報を担った生命体のモデルとしてのウイルスそのものの研究の方が盛んになっていった。
ところが、1968年のマールブルグ病を初めとして、動物からの、いわゆるキラーウイルス感染が相次いで起こるようになり、病原体としてのウイルスへの関心がふたたび高まってきた。私の半世紀にわたるウイルスの研究は、これらの新しいウイルス感染の出現に直接または間接的にかかわるものとなった。
1995年から私は研究仲間に勧められて、一般読者を対象としたインターネットによる連続講座「人獣共通感染症」を開き、続々と現れてくる動物由来感染症の話題をとりあげることになった。これは2000年夏には100回を越え、私自身にとっても大きなデータベースになってきた。読者からは本にまとめてはどうかという声が寄せられるようになってきた。
そのような時期に、双葉社の杉山浩氏からウイルス感染症に関する一般向けの解説書の執筆を依頼されたのを機会に、動物由来のキラー ウイルスについてまとめることにしたのである。執筆にあたっては、なるべく私自身がかかわった出来事を含めるように努めた。
本書の表題のキラーウイルスという名称を私はあまり好きではない。しかし、キラーに変えているのは実は現代社会であり、人間の側である。その点を強調する意図も含めて、あえてこの名称を採用した訳である。このような視点が、二一世紀に我々が間違いなく直面するウイルスとの共生の問題に何らかの警鐘となれば幸いである。