公益社団法人日本獣医学会 The Japanese Society of Veterinary Science

人獣共通感染症 連続講座 第118回(06/23/2001)


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プリオンの高感度検出法

1.プリオンの高感度検出法
 
 本講座110回と115回でBSE牛についてのプリオン検出法の開発の現状をご紹介しました。そこには名前が出てこなかった研究所からユニークなプリオン検出法がNature 411, p. 810(6月14日号)に発表されました。スイスのジュネーブにある、セロノ医薬研究所(Serono Pharmaceutical Research Institute)のガブリエラ・サボリオ(Gabriela Saborio)たちの論文です。

 これまでウシ海綿状脳症(BSE)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)など、プリオン病の診断は、異常プリオン蛋白質(PrPSc:scrapie-type prion proteinの略)の検出に依存してきています。110回で述べたように、現在、BSEについては3社のキットが実用化されています。これらはウエスタン・ブロットやELISAによるPrPSc検出です。どれもが、検出感度を高める工夫を施されていますが、脳の中でもPrPScが高い濃度で見つかる部分の組織についての検査であって、微量のPrPSc検出はできません。
これとは別にさらに高感度の方法として、マウスへの脳内接種で発病を見る、いわゆるマウス・バイオアッセイがあります。これは、通常のウエスタン・ブロットよりも1000倍くらい高い検出感度と言われています。ただし、潜伏期が1年以上あるために、実用にはなりません。

 セロノ研究所の方法は、ちょうど核酸の場合のポリメラーゼ・チェーン反応(PCR)のように、サンプル中のPrPScを増幅して検出しようという、新しい方式です。その概略をご紹介します。

 PrPSc として用いたのはスクレイピー(ハムスターに順化させた263K株)を感染させたハムスターの脳の乳剤です。これを希釈し、それに正常プリオン蛋白質(PrPC:cellular prion proteinの略)として正常なハムスターの脳乳剤を加えて試験管内で培養します。これによりPrPSc(蛋白質分解酵素抵抗性の)の量の増加が認められます。つまり、過剰に加えられたPrPCがPrPScに構造変換したことになります。それを音波処理にかけて、凝集しているPrPScをこまかくして、ふたたびPrPCと培養します。
このようにして、培養-音波処理のサイクルを繰り返すことでPrPScの量がだんだん増加していきます。これを彼らはprotein-misfolding cyclic amplification (PMCA)と名付けています。
5サイクルでPrPScの増加率は平均58倍でした。10サイクルでは、PrPScサンプルを1万倍以上に希釈しても検出でき、これはマウス・バイオアッセイと同等、もしくはそれ以上の感度であると述べています。この方法が改良されれば、潜伏期中の動物の診断にも応用できる可能性があります。

 未発表だが、孤発型CJDの患者の脳のサンプルにも、この方法が応用できたとも述べています。

 一方、プリオン説では蛋白質が病原体とされていますが、その決定的証拠として、試験管内で作り出したPrPScについて感染性を証明することが考えられます。これまでのところ、これは成功していませんが、今回の方法で多量にPrPScを増幅できれば、プリオン説の裏付けにも役立つ可能性があると、著者たちは述べています。