人獣共通感染症 連続講座(第16回)9/1/95
コーヒーブレーク


1。修正:第7回講座(6/24/95)および第15回講座(8/23/95)
読者からの指摘で以下の2点を修正します。PC通信の利点を生かして、間違い、疑問点等、ご遠慮なくご指摘ください。

1)第7回講座
 ロウリイ・ガレットの論説をご紹介しましたが、その2番目のパラグラフでCDCを唯一の民間研究室と訳してあります。その後、予研・長先生からおかしいとのご指摘を受けました。たしかにCDCは日本の厚生省に相当する組織の傘下の国立研究所で、民間ではありません。原文を調べてみたところ、civilian labになっていました。民間というと、日本では、国公立に対するものと考えるのが当然ですが、ここではUSAMRIIDが軍の研究所ですので、それに対してcivilianの言葉が用いられたわけです。直訳で民間人とすべきだったかもしれません。しかし民間人と訳しても、日本ではarmyとcivilianを分けることに慣れていないので、やはり解釈に混乱が起こるかもしれません。単語ひとつをとっても社会的背景でずいぶんややこしい問題がひそんでいることが感じられました。

2)第15回講座(8/23/95)
 Microtus pensylvanicusの日本名:ペンシルバニア・ハタネズミ?としましたが、アメリカハタネズミだそうです(宮崎医大:土屋公幸先生より)。

2。アフリカでのエボラの受けとめ方
 7月の末から8月の始めにかけてケニアに行ってきました。目的は牛の急性伝染病で致死率90%以上というエボラなみのウイルス病、牛疫の研究です。これは人獣共通ではありません。ただし、モービリウイルスの生態という観点からは非常に面白い側面がありますので、機会をみてお話ししてみたいと考えています。
 ケニアにはホットゾーンでウイルスが潜んでいる謎の場所としてエルゴン山のふもとのキタム洞窟があります。そのためザイールのエボラはこちらでも大きな話題になったそうです。ただし、感染が拡がる心配というよりも、観光客のキャンセルの方が重要だったようです。とくにケニアでも患者が出たという報道(これは後で誤報と分かりましたが)で団体客のキャンセルが大分出たそうです。
 ナイロビからの帰りの飛行機の中でケニアの新聞Sunday Standard8月6日号を読んでいたら、アメリカのトップ生化学者で生物兵器の専門家でもあるジャック・フェルダーJack Felderという人がエボラウイルスが最初に診断されたのはアフリカではなくて、米国だと記者会見で述べたという記事がのっていました。米国を中心とした白人社会がアフリカの黒人社会の人口を減らすことをねらっているということです。このような記事が堂々とのることからも、アフリカでの受けとめ方の一端が分かるような気がします。

3。世界獣医学大会World Veterinary Congress
 パシフィコ横浜で9月3ー9日に開かれますが、その中で本講座に関連がありそうなプログラムをお知らせします。
 1)9月4日(月)午後
特別セッション:パスツールと獣医学
 今年はパスツール没後100年で、世界各地で記念行事があります。本大会でも以下の特別セッションを開くことになりました。世界獣医微生物・免疫学連合Wordl Association of Veterinary Microbiology and Immunologyの会長 シャルル・ピレ教授と私が企画したもので、パスツールの業績を振り返り、将来を考える内容になっています。

a. パスツールと獣医微生物学の誕生  ロッセ(フランス)
 パスツールと狂犬病という立派な本(貴重な写真が沢山のっています)の編集をした人で、過去の 業績を一番良く知っています。
b. 日本の獣医微生物学へのパスツールの貢献 中瀬安清(北里研究所)
c. 獣医学とワクチンの進展  ジャン・ルイ・ゲネ (フランス)
d. 獣医学と近代生物学の進展 松山茂(家畜衛生試験場長)
e. パスツールから近代産業へ シャルル・メリュー(ローヌメリュー社長)
 彼の祖父はパスツールと一緒に研究を行っています。

 2)9月5日(火)午前
特別セッション:野生動物へのワクチン接種
野生動物への経口ワクチン投与がテーマの中心です。

 3)9月7日(木)午前
シンポジウム:ワクチンおよび診断におけるバイオテクノロジーの進歩
私の企画で、座長と演者の両方をつとめます。
a. 経口狂犬病ワクチン(オーベール:フランス)
b. 耐熱性組換え牛疫ワクチン(山内)
c. 新しいワクチン開発のアプローチ(ローヌ・バビユク:カナダ)
d. 分子診断(トム・バレット:英国)
e. 組換え抗原による診断(ドン・ノールス:米国)

4)9月8日(金)16:45より
プレナリイセッション:環境問題と獣医学 
主な話題として以下の2つがあります。
地球環境の変化のインパクト(メスラン:WHO獣医公衆衛生部長)
地球環境の変化と出現する疾病(モース:ProdMed 推進の中心人物です。NHKクローズアップ現代、エボラの番組にも登場しました。)


Kazuya Yamanouchi (山内一也)

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