The Japanese Society of Veterinary Science
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動物の病気

牛海綿状脳症(BSE)

連続講座(山内一也東京大学名誉教授)
現状と問題点
BSE公開講演会(H14.10.24)
「BSEと食の安全性」
   Gerald A.H.Well博士
「BSEの感染発病機序」
   小澤義博博士

Q&A(リンク)


わが国への侵入/蔓延が危惧される動物由来感染症

1. 狂犬病
2. ・ニパウイルス感染症
 
ニパ(Nipah)ウイルス
  感染症について(第一報)
     
小澤義博先生
3. 西ナイル熱
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5. ダニ媒介性脳炎
6. リフトバレー熱
7. Bウイルス感染症
8. エボラ出血熱
9. ハンタウイルス感染症
10. インフルエンザ
11. ボルナ病
12. オウム病
13. Q熱
14. 炭疽
15.エキノコッカス症
16.野兎病

ウエストナイルウイルス感染症防疫マニュアル


口蹄疫

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 霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第138回)12/26/02

 BSE安全対策のルーツを振り返る

 私の所属する日本生物科学研究所が発行している「日生研たより」11月号(48巻6号)に上記タイトルの巻頭言を書きましたので、転載します。

 BSEの安全対策の内容については広く理解されてきていると思える。しかし、その科学的根拠が得られるにいたった研究の歴史的経緯はほとんど知られていない。
 現在、プリオン病もしくは伝達性海綿状脳症と総称される神経疾患についての本格的研究は、第二次世界大戦後の英国で始められた。当時、コンプトンの家畜衛生研究所の所長ウイリアム・ゴードンは、英国で増加し始めていたスクレイピーに対するワクチン開発をめざした研究を開始したのである。しかし、農漁食糧省は研究の意義を理解せず、研究費は配分されなかった。そこで、彼は米国から研究費をもらって研究を続けた。英国政府はその研究を阻止しようとして彼の辞職まではかったが彼は研究を続け、ワクチン開発には失敗したものの、ヤギへの感染実験を通じてスクレイピーの病原性について多くの貴重な成果を得ることができた。当時、コンプトンでスクレイピーの病原性の研究に従事していた米国のウイリアム・ハドローは、帰国後、スクレイピー感染ヒツジとヤギにおける感染性分布に関する分類表を1982年に作成した。これが、1995年にWHOによりBSE安全対策の根拠に採用され、現在はEU医薬品審査庁の医薬品・化粧品対策の基礎として欧米を初めわが国でも利用されている。
 1986年にBSEが見いだされてからは、農漁食糧省直属の中央獣医学研究所が、家畜衛生研究所におけるスクレイピーの研究成果を参考にしてウシへの感染実験を1991年に開始した。ウシにBSEウシの脳を食べさせ、4ヶ月毎に殺処分して50種類以上の組織を採取し、マウス脳内接種により感染性の分布を調べたものである。さらに重要な組織については、マウスの代わりに種の壁のないウシに脳内接種を行って感染性を調べるという壮大な実験も行っている。これらの研究に用いたウシの総数は対照を含めると600頭に達する。この成果が特定危険部位を決定した科学的根拠になっている。
 BSE診断の基礎にも、家畜衛生研究所におけるスクレイピー研究が貢献している。前述のハドローは、コンプトン滞在中の1959年にクールーとスクレイピーの類似性を指摘し、その示唆にしたがってカールトン・ガイジュセックはクールーのチンパンジーへの伝達試験に成功して、ヒトの伝達性海綿状脳症の概念を確立した。一方、家畜衛生研究所のリチャード・キンバリンは、同じ研究所のリチャード・チャンドラーが確立していたスクレイピーのマウス・モデルから、スクレイピーのハムスター順化に成功し、種の壁の概念を提唱した。60日という短い潜伏期で発病するこのハムスター順化株を用いてスタンレー・プルシナーのプリオン説は生まれ、現在、この説にもとづいてBSEの診断は行われている。なお、ガイジュセック、プルシナーともにノーベル賞を受賞している。
 これらの経緯は、研究者の自由な発想により始められた研究が、行政の圧力を乗り越え、最終的には社会に還元された事例ともいえる。もしもゴードンがスクレイピー研究を断念していたら、今日のBSE対策もプリオン病研究の進展もどのようになっていたか分からない。

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