動物の病気
牛海綿状脳症(BSE) ■連続講座(山内一也東京大学名誉教授) ■Q&A(リンク) わが国への侵入/蔓延が危惧される動物由来感染症 1. 狂犬病 口蹄疫 耐性菌問題 |
霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第141回)3/3/2003新刊書「忍び寄るバイオテロ」(NHKブックス)上記の本を三瀬勝利先生(元・国立医薬品食品衛生研究所副所長)と共同執筆で出版しました。NHK出版の了解を得ましたので、「まえがき」、「目次」、「あとがき」の部分をご紹介いたします。「まえがき」 二十世紀は微生物学のめざましい進展の時代であった。十九世紀終わりまでに炭疽菌を初めとする細菌の分離ラッシュの時代が始まり、最初のウイルスとして口蹄疫ウイルスも発見された。それまで人類を悩ませてきた主な急性感染症は、その原因である病原微生物が分離され、抗生物質やワクチンの開発により制圧されていった。微生物学が人類に貢献した光の部分となったのである。 一方、微生物学が生まれる以前のはるか昔から、伝染病がもたらす被害を武器、すなわち生物兵器として用いる試みが行われてきていた。微生物学の進展は、生物兵器の開発につながり、国家予算による大規模な研究が行われた。微生物学の影の部分が姿を現してきたといえる。 第二次世界大戦後の冷戦の時代には、アメリカと旧ソ連を中心として生物兵器の開発研究が加速された。アメリカでの生物兵器研究は、一方で実験室感染から作業者を防御するバイオハザード対策の確立という副産物を産み出した。旧ソ連では数千人から数万人もの科学者が生物兵器研究にかかわったと推測されているが、その副産物は生物兵器技術の世界的拡散である。ソ連の崩壊とともに、かなりの数の科学者が国外に流出しテロ支援国家で生物兵器研究を続けていると言われている。 生物兵器の開発研究に膨大な国家予算があてがわれたにもかかわらず、生物兵器は実戦に使用されたことはない。その理由としては、長い潜伏期のために効果がすぐに分からないこと、爆弾のように目に見えるドラスティックな効果が見られないことなどがあげられている。しかし、これらの問題点はテロリストには通用しない。むしろ、密やかに徐々に効果を示すことにより不安を増大させることが利点ともみなされる。しかも、生物兵器は「貧者の核兵器」と呼ばれるように、わずかの金額で少数の人間によって作ることができる。ソ連崩壊による冷戦構造の消失で起きてきた数多くの民族間の抗争では、生物兵器によるバイオテロは格好の手段になりうる。 アメリカがバイオテロの脅威を真剣に認識し始めたきっかけは、オウム真理教によるサリン事件の際に、炭疽菌とボツリヌス毒素の散布まで行っていた事実が明らかになったことである。それまでは「起こるかもしれない」と考えられていたことが、「いつ起こるか」に変わった。アメリカではバイオテロ対策に膨大な予算がつぎこまれ、予行演習も何回か行われた。しかし、2001年10月に起きた炭疽菌事件は、それまでに予想されていたシナリオをはるかに越えた事態になった。 これまでにバイオテロに関しては、すぐれた解説書が何冊か欧米で発行されている。それらはサイエンスライターの筆によるものであって、微生物学専門家が執筆した一般向けの書物はほとんど見あたらない。本書はウイルス学と細菌学の専門家が、半世紀近い経験をもとに、微生物学の影の部分であるバイオテロの実態を解説した点が特徴的といえる。 微生物学専門家の視点から眺めると、いたずらに危険性を強調するつもりは毛頭ないが、バイオテロの潜在的危険性ははかりしれないものがある。現在、高い関心が持たれている天然痘ウイルスや炭疽菌は、いわば古典的生物兵器である。一方、遺伝子組み換え技術が産み出す病原微生物は、近代兵器としてこれから新たな脅威になることが予想される。1993年、米国議会技術評価局は遺伝子組み換え技術の生物兵器への利用の可能性について警告を行ったが、10年後の現状を見ると、その予測をはるかに越えた研究成果が得られてきている。病原微生物学領域は、研究の推進と、バイオテロ対策のための病原体の利用規制の必要性という難しい問題を抱えるようになってきている。 バイオテロは人の健康被害を目的としたものだけではない。家畜や農作物を標的とした経済的被害を目的とする農業テロ、いわゆるアグロテロもある。2002年秋、米国科学アカデミーはアグロテロに関する総合的報告書の中から、事例検討の部分の公開を中止した。あまりにも現実的であって、テロリストに悪用されるのを防ぐためと言われている。 日本では、バイオテロの危険性を世界に発信した国でありながら、バイオテロについては、あまり関心は持たれていない。テロリストに国境はなく、しかもグローバリゼーションの時代、バイオテロの危険性は日本も例外ではない。本書がバイオテロの実態を広く認識するのに役立つことを期待したい。 執筆は、はじめに、第二章(天然痘ウイルス)、第三章(ウイルス兵器、遺伝子改変兵器-遺伝子工学が産み出すスーパーウイルス、アグロテロ兵器)、第四章(微生物感染の成立と伝播の仕組み)、第五章(バイオセーフティ)を山内が、プロローグと第一章から第五章までの山内分担部分以外を三瀬が、それぞれ分担した。 「目次」
「あとがき」 |
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