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口蹄疫

極東における口蹄疫の発生状況(第一報)(2000年4月末現在)

小澤義博
国際獣疫事務局 (OIE) 東京事務所アジア太平洋地域代表
〒107-0062東京都港区南青山1-1-1新青山ビル東館311号

日本を取り巻く極東諸国の口蹄疫による感染状況をまとめて報告する。

1. 香港の口蹄疫

香港の豚の多くは周辺の中国本土から毎日輸入されている。1994年頃からその香港の豚に非常に激 しい症状を示す口蹄疫が毎年発生していることが報告されてきた。1994年にはこの豚に病原性の強い 口蹄疫がフィリピンのルソン島に侵入したが、その起源は香港もしくは中国と考えられている。

香港には表1に示すごとく、1999年も、ほとんど毎月のように口蹄疫が発生しており、従って香港周辺 の中国にも本病の発生が続いているものと推測される。

香港の牛は数が少なく、全頭が常時口蹄疫のワクチンを接種されているので牛での口蹄疫の発生は 報告されていない。

2. 台湾における口蹄疫

台湾には最近少なくとも二回の口蹄疫ウイルスの侵入があった。

第一回目の侵入(豚に親和性の強いO型ウイルス)

1997年3月20日付けで台湾畜産局から国際獣疫事務局(OIE)および日本政府宛てに口蹄疫の発生 が報告された。それによると最初の発生は3月10〜14日頃と推定され、多数の材料が英国のパーブ ライトにある世界口蹄疫診断センターに送られ、検査の結果、4月2日にO型のみであると確認された。 日本政府は3月20日に台湾からの偶蹄類動物の輸入、また2月21日以降に屠殺された偶蹄類動物 からの畜産物の輸入の全面禁止措置をとった。その結果台湾の養豚業に壊滅的な打撃を与える結果 となった。

台湾では1997年2月5日が旧正月であり、旧正月用に大量の豚の臓器が中国、香港等から船で密輸 入され、また同時に子豚も冷凍魚と共に大量に密輸入された。これらの残滓を含む厨芥が新竹および 台南地域の豚に与えられた結果、口蹄疫が台湾に発生した可能性が高い。

1997年3月20日の口蹄疫の確認後、感染群(豚)の殺処分を実施したにもかかわらず、豚肉の市場 閉鎖や豚や車や人の移動を禁止しなかったため、発生の勢いは衰えることなく口蹄疫は3月末までに 北部の一部を除き台湾中の養豚の盛んな県に広がってしまった。そのため台湾政府は備蓄されてい たワクチンの他に大量のワクチンを購入し、ワクチン接種を行うことに決めた。ただし、口蹄疫の発生し た農場では症状の有無にかかわらずすべての豚が殺処分された。今日までに発病頭数と殺処分頭数 の合計は500万頭近くなっている。この豚に特異的に感染するO型ウイルスは、全国的にワクチン接 種が行われているにもかかわらず、1999年にも散発的発生が続いた。

この豚に病原性の強いウイルスによる被害の総額は表2に示されているがごとく約4,000億円と考えら れ、今世紀における口蹄疫による世界最大の被害と言われている。

このO型ウイルスは主として豚(と水牛)にのみ病原性が強く、牛やその他の偶蹄類に感染しないと言 われている。

第二回目の口蹄疫ウイルスの侵入

台湾では1999年6月に、上記の豚に親和性の強いO型ウイルスとは遺伝学的にも宿主親和性(病原 性)の面でも明らかに異なる新種のウイルスが金門島に侵入していることが抗体の調査でわかった。

1999年5月に中国の福建省(Fujian)にO型の口蹄疫の発生があることを知った台湾では中国本土に 近い金門島に本病が侵入する可能性が高いとして、サーベイランスを強化し、抗体の有無を調査して いた。1999年6月に金門島の黄牛が抗体陽性となったことがわかり、189頭(5農場)が殺処分された。 これらの黄牛にはまったく症状が見られず抗体調査の結果により口蹄疫ウイルスの伝播していること が明らかになった。

この新種のO型ウイルス(O/Taiwan/99株)は在来種の黄牛には症状を示さず不顕性感染を起すが、 ホルスタイン種には口蹄疫の症状を示すことが、今年の1月に雲林省(Yunlin)の2農場でわかった。 その後の感染実験では豚にも感染することがわかっているが1997年の豚に親和性の強い O/Taiwan/97株とはVP-1の分子配列も病原性も異なることがわかった。

1999年6月以来の牛や山羊に病原性を示す口蹄疫の発生は表3にまとめられている。今年の2月22 日に高雄の山羊に発生が見られたが3月および4月には口蹄疫の発生の報告はない。これは最近、 牛や山羊にもワクチン接種を行うようになったためかもしれない。

この新しいO型ウイルス(金門株)の今日までにわかっている性質をまとめると次のようになる。

症状

(イ) 台湾(金門島)では、不顕性感染を起し、口蹄疫の症状は見られず、抗体のみが上昇した。 しかし2000年1月の雲林で乳牛と黄牛に発生した本病は乳牛(ホルスタイン種)の口内、蹄部、乳頭部 に水疱の形成が見られた。また雲林の黄牛(肉用牛)では鼻汁の排出、多量の睡液の流出、跛行等が 見られたが水疱の形成は見られなかった。しかし、高い抗体価が検出された。
(ロ)  彰化県(2000年2月14日)と高雄(2000年2月22日)で山羊の口蹄疫が報告されたが、これ も新しいウイルス株によるものと考えられる。2週令以下の仔山羊では100%に近い死亡率が見られた が、水疱の形成は見られず毛の発育不良と赤い斑点が歯齦に見られたものもあった。また生き残った 仔山羊の心筋に斑点状の病変の見られたケースがあった。成長した山羊では食欲不振、発熱、出乳 量の減少などが認められたものもあったが、多くは明らかな症状を示さなかった。
(ハ)  台湾の豚のほとんどは、口蹄疫ワクチンを接種したものでないと市場に出せないので、大部分 の豚における口蹄疫の発生の報告はない。しかし豚を使っての感染実験で、高濃度の金門株 (O/Taiwan/99株)を接種した場合には口蹄疫の典型的症状を示した。

実験室内での金門株の特徴
(イ)  金門株のウイルス分離は、感染初期の材料を用いないと難しい。症状が見られなくて抗体の 上昇しているものでは、プロバングによる材料からもウイルスの分離は難しい。抗体の上がったもので はフレオンによる処理でウイルスを分離しやすくすることが出来る。水疱の形成が見られた乳牛でのウ イルス分離は容易である。
(ロ)  ウイルス分離には牛の甲状腺の細胞よりもBHKやEBK(牛胎児の腎臓)細胞を用いた方が分 離しやすい。しかし金門島の黄牛のプロバング材料からのウイルス分離には、CPEの見られるまでに8 日以上要した。しかし山羊の場合、感染した山羊の乳や、死亡した仔山羊の心臓、脾臓等からのウイ ルス分離の場合には、CPEは2日後に見られた。

金門島で1999年に分離された金門株(O/Taiwan/99株)と2000年の1月〜2月に台湾本土で分離さ れたウイルスは同じO型でも病原性に差があるものと考えられている。果たして、この両株は別々のル ートで台湾に侵入したものであるのか、もしくは金門株が台湾本土の他のウイルス株との組換体が出 現したのか、二説が考えられているが、早急に比較検討を行う必要がある。

図1は、英国のパーブライトの世界口蹄疫センターからOIEに送られてきたO型ウイルスの系統樹(ウ イルスのVP-1抗原の分子配列を比較したもの)であるが、それによると韓国のO型(O/SKR/2000)と 台湾のO型(O/TAW/99およびO/Kinmen/99)は相似性が極めて高いことがわかる。日本のO型 (O/JPN/2000)は、ラオスやカンボジアやベトナムのO型(東南アジアの地域型)に近いと考えられる が、これら東南アジアのO型ウイルス株は、いずれも中国が起源であるのかもしれない。また台湾のO 型(2000年株)との比較も行ってみる必要がある。

3. 韓国における口蹄疫(主として牛型)

OIE本部に送られてきた3月27日付けの韓国からの報告によると、2000年3月20日に口蹄疫の発 生がソウルの北50Kmの38度線に近いPaju市の乳牛に認められた。15頭の乳牛には3月24日ま でに典型的な口蹄疫の症状が見られたので、すべて殺処分された。その他感染の恐れのある105頭 の牛も殺処分された。また4月12日付けのレポートによると上記の地点から150Km南のChungNam 道のHongSeongとBoryung郡にそれぞれ7件と1件ずつ口蹄疫の発生があり、KyungGi道の HwaSeong郡とYongIn市でもそれぞれ1件ずつの発生があった。また、ChungBuk道のChungJu市で も1件発生があった。これらの発生には計61頭の牛が感染したものと考えられるが、これらの感染もし くは汚染の恐れのある偶蹄類808頭が殺処分された。その他Hong Seongから80Km東のChungjuの 牛6頭が感染し21頭が殺処分された。その後も散発的発生と殺処分が続き、今年4月19日までに6 地域で合計2,223頭の牛その他の偶蹄類が殺処分された。2000年4月末までの発生地域は図2に示 されている。

しかし口蹄疫の感染の症状を示したのは乳牛もしくは在来の牛のみで、4月末までは豚には発症は見られていない。 日本と違い、韓国では半径10Kmのプロテクション(移動禁止)地帯が作られ、その外側20Km(半径) までサーベイランス地帯を設け、感受性を有する動物や家畜市場の開催を禁止している。またプロテク ション地域内でのワクチン接種を行っている。

4. ロシアでの口蹄疫

OIE東京事務所に4月26日に入った情報によると、最初の発生は2000年4月10日頃と推察されている。 ウスリースク地区のPrimorski Kraiの養豚場での口蹄疫の発生が4月15日に報告された。合計965,625 頭の豚が感染もしくは汚染し、229頭が死亡した。感染もしくは汚染した豚はすべて殺処分され、その後 の発生は4月26日までのところ報告されていない。

この農場周辺の牛にはワクチン接種が行われている。また動物の移動の禁止も実行されている。

この口蹄疫ウイルスはPCR、ELISAおよびCFTテストでO型ウイルスであることがわかった。またVP-1 geneの分子配列を比較したところO/Vietnam/1999およびO/Taiwan/99ウイルスと98.78%の相似性が 認められた。

5. 日本での口蹄疫対策の要点

今、日本は図3に示すごとくO型の口蹄疫ウイルスによって取り囲まれている。しかも、今日極東に広 がっている口蹄疫には、牛や山羊に教科書通りの口蹄疫の症状を示さないで感染抗体だけを作るO 型のウイルスが蔓延している。これは目に見えない口蹄疫とも言える不気味な口蹄疫でたちが悪い。

和牛だけを見ていると口蹄疫が見分けられず、見逃すか誤診をしてしまう可能性が高い。必ず近辺の 外来種の乳牛や山羊等に、異常がみられないか十分に調査する必要がある。
また一度汚染農場に入ったり、口蹄疫の患畜に接した場合には、すべての衣服や靴や車や機械器具 は高熱もしくは消毒薬(酸もしくはアルカリ液)で完全消毒し、手足や体も石鹸でよく洗いシャワーを5分 以上浴びなくてはならない。出来ればしばらくの間、偶蹄類の動物には接しないように心掛け家畜のい る農場には入らぬようにする。使い捨て用の衣服や手袋等もたくさん用意しておく必要がある。

口蹄疫ワクチンの接種は最後の手段であり、殺処分できる場合には、すべての感染および汚染の可 能性のある偶蹄類を殺処分する必要がある。ワクチンを接種すると口蹄疫ウイルスの検出が難しくな り、清浄化を達成するまでに長期間かかり、結局、遥かに高価な代償を支払わねばならなくなる。

今後も日本周辺のすべての国に口蹄疫の散発的発生が続くものと思われるので、今日までの国際空 港や港の検疫だけでなく、漁船や貨物船(食肉や飼料等)の出入りの多い港では密貿易の監視を強化 する必要がある。

また、目に見えぬ口蹄疫から日本を守るためには、全国的な抗体のサーベイランスのネットワークを構 築する必要がある。万一、口蹄疫が発見された時のために各地域の緊急対応班の組織作りと準備体 制を、模擬訓練を通じて、強化しておく必要がある。

表1: 香港の豚の口蹄疫の発生状況

1999年 件数
頭数 血清型
1月 6 (9,920) O型
3月 2 (430) O型
6月 1 (と場) O型
7月 +   O型
8月 +   O型
9月 +   O型
10月 5 (2,300) O型
11月 1 (60) O型
12月 3 (1,660) O型


表2:台湾の口蹄疫による被害

1997年の直接的被害    Million US$
1. 殺処分豚の補償金 187.5 (403万頭) 37%
2. ワクチン(2100万ドーシス) 13.6
3. 死体処理および環境保護費 24.6
4. その他の諸経費 27.9
5. 市場価格の下落による損害 125.0 (初期の4ヶ月間)
______________________________________________
合計 US$378.6 million (約405億円)

1997年の輸出停止による被害 US$1.6 billion

その他の間接的被害
・失業者 65,000人
・飼料業者の損害
・獣医薬品業者の損害
・食肉加工業者の損害
・農耕作業用機械業者の損害
・輸送業者の損害等

被害合計 US$4 billion  (約4,000億円)


表3:台湾における牛と山羊の口蹄疫の発生
(1999年6月〜2000年4月)

  発生年月日 県名 動物種/頭数
1 1999年6月11日 金門島(Kinmen) 県 牛: 189頭(5農場)
2 1999年7月 台南(Tainan) 県 牛: 410頭(4農場)
3 1999年7月 雲林(Yunlin) 県 牛: 64頭(1農場)
4 2000年1月19日 雲林( (Yunlin) 県 乳牛/黄牛: 124頭(2農場)
5 2000年1月23日 嘉義(Chiayi) 県 牛: 131頭(1農場)
6 2000年2月14日 彰化(Changhua) 県 山羊: 270頭
7 2000年2月22日 高雄(Kaochung) 県 山羊: 295頭(1農場)
      仔山羊39頭死亡

 

連絡先 日本獣医学会事務局
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