動物の病気
牛海綿状脳症(BSE)
■連続講座(山内一也東京大学名誉教授)
■現状と問題点
■BSE公開講演会(H14.10.24)
「BSEと食の安全性」
Gerald A.H.Well博士
「BSEの感染発病機序」
小澤義博博士
■Q&A(リンク)
わが国への侵入/蔓延が危惧される動物由来感染症
1. 狂犬病
2. ・ニパウイルス感染症
・ニパ(Nipah)ウイルス
感染症について(第一報)
小澤義博先生
3. 西ナイル熱
4. ウイルス性出血熱
5. ダニ媒介性脳炎
6. リフトバレー熱
7. Bウイルス感染症
8. エボラ出血熱
9. ハンタウイルス感染症
10. インフルエンザ
11. ボルナ病
12. オウム病
13. Q熱
14. 炭疽
15.エキノコッカス症
16.野兎病
■ウエストナイルウイルス感染症防疫マニュアル
口蹄疫
■口蹄疫Q&A
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耐性菌問題
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霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第153回)1/3/2004
アメリカのBSEについての論説「牛が農務省を飛び越えた」
ニューヨークタイムス(1月2日)にエリック・シュロッサー(Eric Schlosser)の論説が掲載されました。非常に示唆に富んだ内容と思いましたので、仮訳(一部省略)をしてみました。なお、彼はFast Food Nation(ファーストフードの国家)、Reefer Madness(マリファナを吸う人の狂気)の著者だそうです。
過去2週間、ベネマン農務省長官の報道官であるアリサ・ハリソンはBSEがアメリカの消費者へのリスクをもたらすものでないとのメッセージを流し続けている。これは彼女にとってなじみ深いメッセージである。農務省に入る前、彼女は全米肉牛協会(National Cattlemen's Beef Association)の広報部長だった。
この肉牛業界の最大のグループで彼女は政府の食品安全対策と戦い、アメリカのハンバーガーの健康への問題提起を批判した。「BSEはアメリカの問題ではない」とのプレスレリーズを行った人物である。
酪農業界のロビイストから農務省への人事異動はアメリカの食品安全システムの悪い面のシンボルである。連邦政府が本来監督する対象の業界に支配されている例は容易にあげられる。ベネマン長官の主要スタッフには全米酪農協会のロビイストや元全米養豚協会会長がいる。
農務省は2つのしばしば相反する任務をもっている。すなわち、生産者のためにアメリカ産肉の販売促進と消費者のためのアメリカ産肉の安全性保証である。
ベネマン長官は特定危険部位の除去などの安全対策を発表したが、もっとも重要な安全対策を除外した。それは大規模な検査システムである。肉牛業界はほぼ20年間にわたって、危険な病原体の検査のいずれに対しても政府に反対してきたのである。
英国では、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が見つかるまで、政府は牛肉の安全を強調してきた。フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、日本は英国の牛肉輸入を禁止しながら自分の国にはBSEリスクはないと主張してきた。しかし、広範囲のBSE検査が開始されてこの主張が嘘だったことが明らかになった。2001年、フランス国会議員による調査では、「農務省はBSE脅威が最小限であると言って予防対策の導入を阻止または遅らせ、それが農産品の競争力に悪影響を与えたかもしれない」とされた。日本では農林水産省が「重大な失政」、「政策決定に際して生産者の利益優先」と批判された。アメリカは現在これらの国々の失敗を学ぶ代わりに同じ失敗を繰り返そうとしている。
アメリカでは、BSEに対する防火壁として1997年に食品医薬品局(FDA)が実施した肉骨粉の使用禁止があげられている。しかし、この防火壁は充分ではない。子牛には牛の血液が給餌されており、ノーベル賞受賞者のスタンレー・プルシナーによれば「まったく馬鹿げた発想」とのこと。さらに重要な点は、この禁止令がほとんど守られていないことである。2001年の会計検査院の調査では禁止された肉骨粉を取り扱うアメリカの飼料会社やレンダリング会社の1/5は牛の餌への混入を防止するシステムを持っていなかった。最大の肉牛生産州のひとつ、コロラド州の飼料製造業者の1/4以上はBSE防止のための肉骨粉禁止の対策を、実施4年後でも知らなかった。
2002年の会計検査院の追跡調査ではFDAの点検成績には大きな欠点があり、肉骨粉禁止令の遵守状況を評価するのに用いるべきではないと述べられている。事実、英国が肉骨粉禁止を発表して14年後でも、FDAは牛のレンダリングと牛の飼料を製造している会社の完全なリストは持っていなかった。
昨年アメリカはカナダから170万頭の生きた牛を輸入しており、アメリカよりもBSE防止対策が遅れているメキシコからは100万頭の牛を輸入した。昨年、農務省は屠畜された3500万頭のうち、2万頭を検査したに過ぎない。アメリカよりはるかに少ない牛が飼育されているベルギーでは、約20倍の牛が検査されている。日本は人の食用になる乳牛、肉牛すべてを検査している。アメリカの牛を検査する代わりに、アメリカ政府は合衆国にどれくらいBSEの危険性があるかを調べたハーバード・リスク分析センターの仕事に大きく頼っている。先週、農務省はこのハーバードの調査結果をふたたび強調したが、よく見ればこれらの成績は慰めにはならない。総合的で良く計画された調査ではあるが、これらはどれくらいBSEが広がっただろうかというコンピューター・モデルにもとづいている。どれだけ正確かは、元になった仮定に依存している。「我々のモデルは正式の確認にはならない」、「それはBSEの侵入とその後の出来事について対照を設けた実験はないためである」と、ハーバードの報告書は述べている。残念なことに、我々が実際に必要とするのは「正式の確認」である。そして、それはアメリカの牛について広範囲の検査をーーとくにファーストフードのハンバーガーの大部分に用いられ、BSEリスクが高い乳牛にとくに焦点を合わせてーー始めることである。それに加えて、汚染の疑いのある肉をマーケットから強制的に回収できる権限を連邦政府に与えることが必要である。現在、肉の回収はすべて自主的であって、ほとんど効果がない。そしてもっとも重要なことは、人々の健康を守ることが唯一の任務である独立した食品安全機関の設立である。農務省にはアメリカの肉の全世界への輸出促進を続けさせるがよい。しかし、新しい機関には、その肉が安全であることを保証させる権限を与えなければならない。
たしかに、人の健康へのBSEの脅威は不確実なままである。しかし、アメリカの牛のBSE検査は1ポンドの牛肉の値段をほんの1ペニー高くするだけである。それをしなければ、ドルと人の苦しみの両面で、もっと高価な代償を払うことになるかもしれない。
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