日本獣医学会は、明治18年(1885)に創立された大日本獣医会にその源を発している。明治初年、主としてドイツ学派の流れをくんで導入された我が国の獣医学は、明治・大正年代においてその基盤が作られ、昭和年代になってから科学的体系を整えてきた。すなわち、獣医学の学問分野として分化し、教育上に体系化されるまでには半世紀以上を要している。
第二次世界大戦の終結までは、我が国の獣医学は専ら軍事的立場から馬が重要視され、また、獣医学の主領域が家畜伝染病や臨床獣医学にほぼ限定されていた。しかし、昭和20年以降、終戦後は兵役用の馬の需要はなくなり、さらに社会情勢と食糧事情の変化によって、獣医学の主な対象は馬から牛、豚、鶏などの産業動物へと移っていった。また、畜産の飼養形態が大型化するに伴って、急性伝染病は勿論のこと、このほか今迄にあまり問題とならなかった日和見感染症、各種の慢性疾患や環境性疾病が多発して大きな被害を与えるようになった。
このような状況から、獣医学の研究は従来の急性伝染病だけに止まらず、日和見感染症、各種の代謝障害、栄養障害、繁殖障害あるいは中毒などの研究が盛んとなった。また、公衆衛生についても戦後きわめて重視され、人獣共通伝染病、食品衛生、環境衛生などについて多くの業績が挙げられつつある。また、最近では伴侶動物を主体とする小動物の研究、野生動物分野ならびに地球生態系保全に関する研究も活発になされつつある。
明治18年(1885) | 大日本獣医会の発足(会員数 166名) |
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明治21年(1881) | 中央獣医会と改称 |
大正10年(1921) | 日本獣医学会の発足(会員数 272名) |
大正14年(1925) | 中央獣医会は社団法人となる(会員数 1794名) |
昭和14年(1939) | 中央獣医会と日本獣医学会が合併して、大日本獣学会と改称(会員数 1472名) |
昭和23年(1948) | 大日本獣医学会は日本獣医学会と改称(会員数 2287名) |
平成10年(1998) | 日本獣医学会は現在、会員数(正会員 3949名、学生会員 535名、名誉会員 19名)4503名 4専門部会のもと11の所属研究団体をもつ |
平成24年(2012) | 日本獣医学会は公益社団法人となる |
日本獣医学会では基礎・応用・臨床の研究を通じ、以下の分野で活躍し、社会に貢献している。
写真1 伴侶動物(イヌ)
イヌの耳道は狭く長いこともあって、外耳道炎は非常に多い。耳の治療は痛みを伴うため、動物を鎮静しなければならないことが多い。この写真は眠っているイヌの耳の奥を耳鏡を使って検査しているところ。
写真2 家畜(ウシ)の治療
黒毛和牛(2ヶ月齢)、子牛の右大腿骨骨折を直すためにまず子牛を全身麻酔し、手術する部分の毛を剃って皮膚を消毒しているところ。
この子牛は手術後、創外固定により治癒した。
写真3 生命科学の基礎研究
マウスの脳に大腸菌由来の遺伝子を導入してある遺伝子の発現場所を可視化したもの(矢印の青い部分)。この手法は遺伝子が神経行動にどう係わっているかを解明するのに役立っている。マウスには2万個もの遺伝子があるといわれている。現在、機能が解明できているのはそのごくわずかにすぎません。
写真4 野生動物の保護と管理
野生動物の生息状況や栄養状態を示す指標として妊娠率が用いられている。野生動物の妊娠率が環境条件を反映して変動するためである。北海道ではシカの妊娠診断を超音波診断装置を用いて実施している。このような調査の継続により個体群の質や動向をモニタリングでき、ヒトと動物の共存に役立てている。
写真5 地球環境の変化をモニター
野生動物の生息状況や栄養状態を示す指標として妊娠率が用いられている。野生動物の妊娠率が環境条件を反映して変動するためである。北海道ではシカの妊娠診断を超音波診断装置を用いて実施している。このような調査の継続により個体群の質や動向をモニタリングでき、ヒトと動物の共存に役立てている。
写真6 遺伝子工学技術を用いた有用物質の生産
左:遺伝に工学技術の発展により動物のワクチンや有用物質を動物の遺伝子を導入した植物につくらせることが可能になった。写真左は、ジャガイモに目的とする遺伝子を組み込んだアグロバクテリウムという細菌を感染させたものである。これにより目的とする遺伝子がジャガイモに導入され、目的とする有用物質を大量に生産できる。
右:写真右は 作ったヒトインターフェロンαを発現するジャガイモ。
写真7 国際協力
発展途上国における伝染病の調査・研究を通じ畜産の振興に協力している。写真はアフリカ諸国で猛威を振るっているダニ媒介性の原虫による疾病(東海岸熱)の分子疫学調査のため、ザンビアの農場で採血を行っているところである。
写真8 発展途上国の獣医師の研修
国際協力事業団(JICA) 通じ発展途上国の獣医師が多数来日し、大学、農業共済組合、家畜保健衛生所等で臨床や家畜伝染病の診断などの研修をうけている。